ORIENTATION ・ LECTURE

開発ワークフローとAI活用 座学編
どこに効かせ、どこは人間が握るか

本日の前半55分。開発の各工程でAIをどこに効かせ、どこは人間が握るかを切り分けるための土台です。著作権・脆弱性・プロンプトインジェクションのリスクと、任せる/握るの線引き、レビュー方針を、公的指針と最新の調査で押さえます。手を動かす演習は後半、ブラウザのGemini(対話型)で行います。

2026年7月29日(水)
14:00 - 17:00
対面・法研システムズ様
エンジニア 10〜15名
この座学で扱うこと
15min

Session 01 オリエンテーション講義

本日のゴール・今回の前提3点・クラス共有シート

40min

Session 02 リスクマネジメントとガバナンス講義+デモ

活用実態・著作権/脆弱性/注入・任せる握る・レビュー方針・データ取扱い

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この後 Session 03〜04 はハンズオン別資料

Geminiでの開発タスク体験・AI活用マップ・チームルール雛形

SESSION 01 ・ 15min

オリエンテーション

開発の7工程を棚卸しし、効果とリスクでAI活用マップを1枚作り、AI併用コーディングのチームルール雛形の叩き台まで持ち帰る日です。手を動かす演習はブラウザの対話型Geminiが主役です。IDE上のエージェントは後半に画面でお見せする世界観の共有にとどめます。

01 本日3時間で持ち帰るもの

今日の軸は対話型Gemini

手を動かす演習はブラウザの Gemini(対話型)で行います。IDE上のエージェント(Claude Code / Copilot / Cursor)は Session 04 で画面をお見せする世界観の共有にとどめ、手元操作はありません。

02 今回の前提 3点

使うもの

ブラウザの Gemini(gemini.google.com)と、クラス共有シート(Googleスプレッドシート)です。IDEエージェントのインストールは今日は不要です。

03 全員参加を見える化するクラス共有シート

本日は受講者全員で1枚のGoogleスプレッドシートを使います。各演習のあと、結果を一言と進み具合を、ご自身の名前の行に記入していただきます。進み具合は「やってみた/つまづき中/できた」の3つから選ぶだけです。

URLを開く
自分の行を探す
毎演習ごとに記録
正解を競うものではない

空欄を自分の言葉で埋めること自体が、今日の参加です。講師はこのシートを見て、つまずいている方にすぐ声をかけます。

SESSION 02 ・ 40min

リスクマネジメントとガバナンス

AIを開発に入れるほど、著作権・脆弱性・注入・情報管理のリスクが表に出ます。脅すためではなく、正しく怖がって正しく使うための40分です。何を任せ、何を人間が握るか。その線引きの根拠を、最新の調査と公的枠組みで押さえます。

01 2026年 エンジニアのAI活用実態

AIコーディングは、これから来る技術ではなく、すでに開発現場で使われている技術になりました。まず現在地を数字で確認します。

90%
AIコーディングツールの採用
Google DORA 2025 レポート
約75%
Googleの新規コードがAI由来
(2024年の約25%から1年で上昇)
84%
開発者がAIツールを使用中/使用予定
Stack Overflow 2025 調査

02 便利さと信頼のギャップ

使う人は増えましたが、そのまま信じる人はむしろ減っています。ほぼ正しいが微妙にずれる出力への不信が背景です。だからこそ、人間の確認とレビューを工程に組み込むのが前提になります。

84%
AIツールを使用
29%
出力を信頼(前年40%→29%へ低下)
便利だが信用しすぎない

Stack Overflow 2025年調査では、使用率は84%まで上がった一方、出力を信頼する開発者は29%にとどまります。これが現場の実感です。

03 リスク1 著作権・ライセンス

論点内容
Doe v. GitHub(Copilot訴訟)2025年に和解成立。学習データとコード生成の権利関係は依然グレー
著作権法30条の4(日本)情報解析目的の学習は原則適法。ただし享受目的や、権利者の利益を不当に害する利用は対象外
Gemini Code Assist のIP補償Googleが著作権侵害クレームに対する補償を提供。契約条件の範囲内での利用が前提
OSSライセンスの確認手順を持つ

生成コードがどのライセンスに由来するかは追跡しにくいため、社内でOSSライセンスの確認手順を持つのが現実的です。

04 リスク2 脆弱性

調査(年次)内容
Veracode 2025AI生成コードの約45%に何らかのセキュリティ脆弱性が混入
Apiiro 2025AI併用でコード量が増え、脆弱性検出が4倍・深刻な露出が10倍に
Slopsquatting(2025〜)AIが約20%の頻度で存在しないパッケージ名を提案。攻撃者がその名で悪意パッケージを登録
動くことと安全であることは別

生成コードは、動くことと安全であることが別物です。依存パッケージの実在確認とスキャンを工程に入れてください。とくに Slopsquatting は、AIが提案した架空のパッケージ名を攻撃者が悪用する新しい攻撃面です。

05 リスク3 プロンプトインジェクション

プロンプトインジェクションとは、外部データに紛れた指示でAIを乗っ取る攻撃です。エージェントに外部データを読ませるほど、その中に紛れた指示に従ってしまう危険が増えます。

読ませる対象を絞る・実行前に人間が確認する

エージェントに外部データを読ませるほど、その中に紛れた指示に従ってしまう危険が増えます。読ませる対象を絞り、実行前に人間が確認するのが基本です。

06 AIに任せる / 人間が握る 線引き

AIは広げるのが得意、人間は決めるのが役目です。任せる範囲を明文化しておくと、チームで判断がぶれません。この線引きが、後半で作るチームルール雛形の骨格になります。

AIに任せる
  • 観点出し・たたき台の列挙
  • 初稿・ドラフトの生成
  • 定型的な変換・整形
  • 調べものの下ごしらえ
人間が握る
  • 承認と本番反映の判断
  • アーキテクチャ・設計の意思決定
  • 法務・セキュリティの最終確認
  • 責任を伴う対外コミュニケーション

07 コードレビュー方針の現実解

組織・時期方針
Linux Kernel(2025年11月)AI補助は Assisted-by: の明記を必須化。ただし Signed-off-by:(責任表明)はAI名義を禁止
Anthropic Code Review(2026年3月)CLAUDE.md+REVIEW.md で観点を明文化。AIレビュー後も人間の承認を必須とする運用
AIレビュー→人間レビューの二段構え

AIレビューは観点の抜け漏れを減らす一次フィルタです。最終承認は人間が担う二段構えが定着しつつあります。

08 AIガバナンスの公的枠組み

枠組み要点
AI事業者ガイドライン 第1.2版(2026年3月31日)総務省・経産省。AIエージェント/フィジカルAIのリスク整理、リスクベースアプローチの具体化
日本のAI法(2025年9月1日 全面施行)理念法で罰則なし。内閣にAI戦略本部を設置、基本計画策定・実態調査・指導等
EU AI Act(2026年8月2日〜)ガバナンス構造とGPAI執行が適用。Digital Omnibus暫定合意(2026年5月7日)で高リスク(Annex III)義務は2027年12月2日へ延期

09 データの取り扱い 3つの環境

Googleの生成AIは、使っているアカウントの種類によって、入力した文章が学習に使われるか、人が中身を見ることがあるかが変わります。会社アカウント(Workspace)は契約上、入力が学習に使われない設計です。それでも機密・個人情報・社内コードは、念のため入れないのが実務の主流です。

データの種類無料版のGemini個人の有料プラン会社アカウント(Workspace)
入力が学習に使われるか使われることあり(設定でオフ可)無料版と同じ(オフ可)契約上 使われない
機密情報(社外秘・契約など)原則 入れない原則 入れない原則 入れない(必要時マスキング)
個人情報(氏名・顧客データ)入れない入れない入れない(必要時マスキング)
ソースコード(社内リポジトリ)入れない入れない扱う場合は社内規程に従う
迷ったら入れない

会社アカウント(Workspace)は入力が学習に使われない設計です。それでも機密・個人情報・社内コードは念のため入れない。迷ったら入れない、やむを得なければ次のマスキングが原則です。

10 どうしても使うときは マスキング

やむを得ずデータを渡すときは、渡す前に加工します。中心に使うのはダミー置換です。後半の演習1では、架空の障害調査ログを題材に、残す列・消す列・置き換える値を自分の手で決めます。

コツは3つ

同じ名前は必ず同じ仮名へ(ゆらさない)。迷う列は塗るより消す(確実)。最後に消し残しを目視で確認する。ログの末尾やスタックトレースに実値が紛れがちです。全消しでは調査に使えず、生貼りでは漏れる。その中間を手で決めるのが演習1の狙いです。

11 ベストプラクティスの実態

効果が出るのは、ツールを入れただけのチームではなく、レビューやルール整備がそろったチームです。AIで量が増えるほど、確認とテストの設計が効いてきます。入れれば速くなるではなく、整備した分だけ速くなる、が実態です。

95%
メルカリ社内のAI利用率(2025年次)
70%
AI生成コード比率(同)
64%
開発量の増加(同)
強いチームほど効果が大きい

メルカリの社内プロジェクト「Project Double」では、対象業務の工数が約1/5になったと報告されています。もともと強いチームほど効果が大きいのが共通点です。

12 向き合い方の原則5つ

SOURCES
SESSION 補足

後半で扱うこと(予告)

ここからは後半のハンズオンで手を動かす内容の予告です。すべての演習は「考える→書く→実行→答え合わせ」の4ステップで進みます。参考プロンプトを先に見るとコピー作業になるため、考えるを飛ばさず、答え合わせは講師の合図で hints フォルダを開きます。

01 Geminiで体験する開発タスク(演習1〜5)

対話型Geminiで、開発の各工程を一通り体験します。当日必須は演習1〜3、演習4・5は時間次第で任意です。

演習内容OK基準の目安
1 マスキング判断架空の障害ログを、そのまま渡してよいか判断し加工版を作る残す/消す/置換を自分で決めて加工版が作れる
2 要件分解と仕様ドラフト曖昧な機能メモから未確定点を洗い出し、仕様を構造化する目的/入力/出力/制約/受け入れ条件で整理できる
3 コードレビュー観点出し問題を仕込んだ関数を5観点でレビューさせ、根拠の薄い指摘を見極めるバグ/セキュリティ/性能/可読性/テスト網羅で指摘が返る
4 テストケース生成(任意)正常系/境界値/異常系でpytestを生成させ、抜けを足す3段階のテストが構造化されて返る
5 バグ原因特定(任意)障害ログから原因仮説3件と確認手順を出させ、優先順位を付け直す仮説3件+確認手順が返り、自分で並べ替えられる
AIは広げる、人間は絞る

境界値や異常系の列挙、原因仮説の洗い出しはAIが助けてくれます。一方で、指摘の取捨選択や仮説の絞り込みは人間の仕事です。この役割分担を体で掴んでください。

02 開発ワークフロー×AI活用マップとチームルール雛形

後半では、自分の開発の7工程(要件/設計/実装/レビュー/テスト/デバッグ/運用など)を棚卸しし、効果とリスクで評価してAI活用マップを1枚作ります。上位3件に「1ヶ月で試す」印を立て、まず試す1件を決めるのが目的です。続いて、Session 02の「任せる/握る」とレビュー方針をもとに、AI併用コーディングのチームルール雛形の叩き台を作ります。

完璧なマップより、まず試す1件

完璧なマップより、まず試す1件が決まることが目的です。効果が高くリスクが低い工程から着手するのが現実的です。チームルール雛形は叩き台まで。磨きは持ち帰りで構いません。

03 AI駆動開発ツール 世界観の共有

Session 04 の最後に、IDE上のAIエージェントの現在地を講師画面でお見せします。今回の軸はGeminiの対話型で、これらのツールは興味喚起の紹介どまりです。手元操作はありません。経験豊富な開発者は平均2.3ツールを併用していると報告されています。

ツール2026年前半の状況
Claude Codeターミナル/IDE/デスクトップ/Slackで動く自律エージェント。モデルは Claude Sonnet 5(2026年6月30日、Sonnet 4.6を置換)
GitHub Copilot2026年6月1日から全プランが従量課金(AI Credits)へ移行。Business/Enterprise向けに自社モデル MAI-Code-1-Flash がGA
Cursor2026年6月のTeams更新で、ファーストパーティ(Composer 2.5 等)とサードパーティAPIの使用量プールを分離
SOURCES